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東京高等裁判所 昭和53年(行ス)19号 決定

抗告人(申立人)

株式会社川崎パブリツクコース

右代表者

佐藤兼蔵

右訴訟代理人

丸尾武良

右復代理人

桜井修平

相手方

建設省関東地方建設局長

右指定代理人

小沢義彦

外七名

主文

原決定を取消す。

本件執行停止の申立を棄却する。

申立費用は、一、二審を通じ、申立人の負担とする。

理由

第一抗告の趣旨及び理由並びに当事者双方の主張

別紙のとおり

第二当裁判所の判断

一抗告理由について

1  本件疎明によれば、次の事実が認められる。

(一) 申立人は、昭和二九年国の機関としての神奈川県知事より、同県川崎市幸区古市場先の多摩川水系多摩川右岸の河川区域内の土地約四二万平方メートルにつき、期間を同年五月四日から一〇年とする占用許可をえてこれを借り受け、以来ここにゴルフ場を建設してその経営に当つていたが、昭和三五年にはさらに同河川区域内の土地約一万平方メートルにつき占用許可(期間満了は前記の許可に同じ)がなされ、右期間の満了後は、その許可対象区域が逐次減少し、また占用期間も三か月、一年または三年という比較的短期間のものではあつたが、引続き占用許可が継続してなされ(ただし、許可権者は、昭和四一年以降は建設省関東地方建設局長)昭和四九年には、同河川区域約二一万平方メートルの土地につき占用期間を同年四月一日から昭和五〇年三月三一日までと定めて許可処分がなされた。

(二) 申立人は、相手方に対し、占用期間の更新を求めるため、昭和五〇年二月二七日付でそれまで占用許可をえていた前記約二一万平方メートルの同河川区域の土地につき占用許可の申請(河川法第二四条による申請)をしたところ、相手方は、同年三月二七日付で右申請のあつた区域のうち多摩川上流寄りのほぼ四分の一に相当する区域約五万五〇〇〇平方メートル(以上「甲土地」という。)を除いた分について占用期間を同年四月一日から昭和五一年三月三一日までと定める旨の占用許可処分をした(以下「本件処分」という。)。ただし、甲土地については許可または不許可の明示の処分がなされなかつた。

(三) 申立人は、本件処分に関し、甲土地について許可がなされなかつたことが不許可処分に当たるとして昭和五〇年三月三一日東京地方裁判所に対し、相手方を被告として右不許可処分の取消を求める訴訟を提起した。

2 そこで案ずるに、河川法の規定に基づいて従来から河川区域内の土地の占用許可を受けていた者が期限の満了に際し、更新の請求をしたのに対し、管理権者がその河川区域内土地を縮少するなどの条件の改定をする旨の処分をした場合には、その処分は、手続上では新たな占用許可の方法によらしめるとしても、その実質においては、新たな占用権の設定ではなく、従前の権利の存続を承認し、ただ同河川区域内の土地の一部についてこれを許可対象区域から除外する旨の変更処分をなしたものと解するを相当とする。本件において、抗告人が相手方に対し占用期間の更新を求め、これに対し相手方が本件処分をしたことは前示一1(二)記載のとおりである。したがつて、本件処分は、従前の占用許可条件(占用期間・一年許可対象区域約二一万平方メートル)の一部を改定し、許可対象区域より甲地を除いた上で、従前の条件による権利の存続を承認する旨の変更処分をしたものということができる(なお、許可対象区域より甲地を除いた点を不許可処分があつたものと解することができるとしても、それは新たな申請に対する単なる不許可処分ということはできない。)。

そうだとすると、本件処分の効力の停止を求める法律上の利益はあるというべきであるから、これと異り、本件処分を単なる不許可処分と解し、かゝる処分の執行停止を求める法律上の利益がないとして本件執行停止の申立を却下した原決定は失当といわざるを得ない。

二本件執行停止の申立について

ところで、本件記録によると、本案訴訟(昭和五〇年(行ウ)第三一号河川区域占用不許可処分取消請求事件)については、すでに判決があり、これについて控訴が提起され、目下控訴審において審理中であることが明らかであるので、本件執行停止の申立を原審に差戻すことなく、これを審理判断する。

申立人は、期間の満了に際し、相手方による占用妨害が予想され、もし万一相手方による占用妨害が行われるならば、申立人ないし従業員、利用者にとつて回復不能でかつ金銭で償うことのできない損害を生ずる旨主張する。

しかしながら、本件処分の性質は前記のとおりであるから、本件処分の効力の確定を待たないで申立人主張のような妨害行為があるとは考えられない。仮に本件処分を単なる不許可処分と解するとすれば、占用期間の満了によつて申立人は占用権を失い、その違法を排除するための執行などが行われることが予想されないわけではないが、現実にかかる行為が具体的事実として行われ、または行われようとしていることを認むべき疎明は見当らない。したがつて、いずれにせよ、本件においては本件処分の効力の停止を求むべき緊急の必要性がないといわざるを得ない。それゆえ、本件執行停止の申立は失当である。

三以上の次第で、本件抗告は理由があるから、原決定を取消すこととし、本件執行停止の申立は失当であるから、これを棄却することとし、申立費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九六条に則り、主文のとおり決定する。

(杉本良吉 高木積夫 清野寛甫)

〔抗告の趣旨〕

一、原決定を取消す。

二、相手方が、昭和五〇年三月二七日付建関水第一九四号をもつて、抗告人に対しなした別紙物件目録記載の甲土地についての占用不許可処分にもとずく執行は、本案判決が確定するまでこれを停止する。

三、相手方は、抗告人が別紙物件目録記載土地をパブリツクゴルフコースとして占用するのを妨害してはならない。

との判決を求める。

〔抗告の理由〕

一、原決定

抗告人、昭和五〇年二月二七日、従来から継続して占用許可を受けて使用していた別紙物件目録記載の各土地について、河川法第二四条に基づく占用許可申請をしたところ、相手方は、昭和五〇年三月二七日付建関水第一九四号をもつて、同目録記載(1)の土地につき不許可処分をしたが、右不許可処分は違法であり、抗告人は昭和五〇年三月三一日東京地方裁判所に対し同処分の取消しを求める訴え(同庁昭和五〇年(行ウ)第三一号)を提起した。そして、抗告人は、同処分によつて回復困難な損害を被るから、昭和五三年三月二〇日同裁判所に対し、抗告の趣旨第二項および同第三項記載の右占用不許可処分執行停止の決定を求める申立(同庁昭和五三年(行ク)第二三号)をなしていたのであるが、同裁判所は昭和五三年六月二六日付をもつて右申立を却下する旨の決定をした。

二、原決定の理由

そして、原決定の理由とするところは、抗告の趣旨第二項の申立については、当該不許可処分の執行ないしその効力を停止してみても、何ら許可がされた状態が作出されるわけではないから、抗告人は右申立てをするについて利益を有しないものというべきである、というにある。

三、原決定の不当性

1 右原決定の理由とするところは要するに、許可や給付決定等の停止・撤回・取消などのように既存の継続的法律関係を変更・消滅せしめる処分の場合であれば、この効力を停止すれば右既存の継続的法律関係が保全されるという実益があるが、拒否処分の効力を停止するだけでは法的には何も保全されるものがないというのであろう。

2 ところで、仮りに、執行停止に関するかかる原決定の理由が正当として認められるものであるならば、本案訴訟たる処分取消訴訟自体についても、抗告人(原告)の訴の利益なしとして右訴訟も却下するのでなければ理論的には一貫しないことになるのではないか。

すなわち、「当該不許可処分の執行ないしその効力を停止してみても」、「何ら許可がされた状態が作出されるわけではない」、すなわち法的には何も保全されるものがないから、抗告人は右不許可処分の執行停止の「申立てをするについて利益を有しない」というのであれば、右不許可処分を取消してみても、この場合でも当然には「何ら許可がされた状態が作出されるわけではない」から、抗告人(原告)には、右不許可処分の取消を請求するについての利益を有しない、との結論に帰着せざるを得ないと思われるからである。

3 しかしながら、本案の訴の利益については原決定裁判所はこのようには解していない。右裁判所は、原決定をなしたと同日、本案訴訟についても判決を下しているが、そこでは原告(抗訴人)の請求につき訴の利益などの訴訟要件についてはその存在を当然の前提としているのである。

この、本案において原告(抗告人)の訴の利益を認める原決定裁判所の右判断こそ、近時の行政訴訟法の解釈からすれば広く一般に認められているものであり、正当なものというべきである。そして、そうであるならば、理論上、抗告人において本件不許可処分の執行停止を求め得る利益があるというべきことになるのは当然のことといわなければならない。

すなわち、本件不許可処分を取消してみても、この場合でも当然には「何ら許可がされた状態が作出されるわけではない」が、それでも抗告人(原告)には、右不許可処分の取消を請求するについての利益を有するというべきである以上、「本件不許可処分の執行ないしその効力を停止してみても」、「何ら許可がされた状態が作出されるわけではない」が、それでも抗告人(原告)には、右不許可処分の執行停止を申立てる利益があるというべきだからである。

4 実際のところ、抗告人(原告)においては、本案訴訟および執行停止申立事件のいずれについても、本件不許可処分の取消ないしは執行停止を求める利益を有するものである。

すなわち、本案についていうならば、本件不許可処分の取消請求をしなければ、抗告人(原告)の本件土地の占用は違法なものとして相手方(被告)より強制的に退去せられることにならざるを得ないが、右不許可処分の取消判決が確定したならば、たとえ、右判決によつても「何ら許可がされた状態が作出されるわけではない」としても、相手方(被告)は右判決の判断内容に拘束されて改めて抗告人(原告)の本件土地の占用許可申請に対する処分をしなければならないことになるから、抗告人(原告)が右請求につき訴の利益を有することは明らかである。

そして、これと同様、本件執行停止申立についても、抗告人において右申立をしなければ、たとえ本訴を提起しているとしても本件不許可処分の執行は当然には停止されないから、抗告人の本件土地の占用は違法なものとして何時相手方から強制的に退去せられることになるかも知れないのであるが、右執行停止決定がなされれば、本案の判決が確定するまでの間、たとえ同決定によつても「何ら許可がされた状態が作出されるわけではない」としても、右不許可処分の執行が停止される結果、少なくとも、右不許可にかかる抗告人の本件土地占用許可申請について相手方の判断がなされていない状態に復し、抗告人においては、あらためて相手方の許否決定がなされるまでは法的不利益を受けないという地位を得ることになり、抗告人が右申立につき利益を有することは明らかである。

5 もつとも、本件のような違法な拒否処分に対する利益処分申請者に対して、当該不許可処分庁を相手とするいわゆる義務づけ訴訟を認め、右義務づけ訴訟に伴なう仮処分などの保全手続をも認める法制のもとであるならば、原決定のように、単に不許可処分の執行停止を求める場合には抗告人にそのような利益なしとしても、法的正義に反することはないであろう。

西ドイツにおいては、現にこのような立法を行なつていると聞くが、わが国においては右のような保全手続を定める規定がないのは勿論、そもそも右義務づけ訴訟が行政訴訟法上認められるか否かさえ明らかではない。

そうである以上、そしてまた、本件のような違法な拒否処分に対する利益処分申請者に右拒否処分の執行停止を認めないと、前述のような不利益を現実に被ることが明らかである以上、このような場合でも行政事件訴訟法第二五条による執行停止の途をとり得ることとしなければ、法的正義に著しく反することになるものといわなければならない。

(以上の諸点については、杉村敏正・兼子仁共著「行政手続・行政争訟法」(筑摩書房)三三九―三四一頁およびそこで引用されている各判例を参照されたい。)

6 以上のとおり、原決定が抗告人の本件申立を却下した理由は、全く認めがたいものである。

そして、抗告人の本件申立が行政事件訴訟法第二五条の定める各要件をいずれも充たすものであることは、抗告人の本件執行停止決定申請書「申請の理由」欄に記載したところ、および同申請書添付の疎号各証より明らかである。

なお前述したとおり、原決定裁判所は、本案訴訟についても、昭和五三年六月二六日、「原告(抗告人)の請求を棄却する」旨の判決を言渡している。しかし右判決は、抗告人(原告)が昭和五三年三月一五日付上申書、同年五月九日付準備書面、同月一九日付訴変更申立書、同年六月二三日付訴変更申立書などにおいて、金銭的補償請求などを含めて新たに行つた請求および主張を一切無視したものであつて、極めて不当なものといわなければならない。そこで抗告人(原告)は即日、右判決の送達をうけて、御庁に対し控訴を申立てている。

右のとおり、原決定は不当であるからその取消を求めるものである。

答弁書、執行停止決定申請書〈省略〉

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